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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「green season ~春~」(1)

 
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「疲れたなあ……」
 発しようと頭で考えるより先に、唇から言葉が零れ落ちた。
 藤崎彩菜(ふじさきあやな)は追い詰められていた。見えない重圧に押しつぶされそうになっていた。
 勤めていた会社が半年前に倒産した。働いた分の給料さえ未払いのまま、責任者は突然姿を消した。
 会社の状態が良くないことは薄々わかっていたが、まさかこんなことになってしまうなんて。ショックだった。小さいけれど、大好きな会社だったのに。
 彩菜は事務員だったが、同僚とも仲がよく、とても居心地のいい職場だった。それなりに仕事にやりがいも感じていた。
 突然の倒産に社員たちは途方に暮れたが、責任者が戻ってきてくれることを願いつつも、いつまでも働かないでいるわけにはいかなかった。それぞれが再就職先を探し始め、彩菜も不況の中、職探しに明け暮れることとなった。

 やっと再就職が決まったのは二ヶ月ほど前だった。
 大きな会社ではなかったが、給与や通勤時間などの条件も悪くなく、前の事務員が辞めたばかりのところに運良く入ることが出来たのだ。
 でも、運が良かったと喜んでいたのは最初の一週間ほどだけだった。
 仕事自体はそんなに難しいわけではない。細かいので慣れるまでは気を抜けないと思ったが慣れてしまえばゆとりを持って出来るのではないかと思えた。
 ただ、拘束時間が長すぎる。
 一応週休二日制となっていたが、それは表向きだけのことだった。彩菜が再就職してからきちんと休めたのは二ヶ月間でたった一日だけだった。
 就業時間は朝九時から十七時となっていたが、定時に帰れたことはない。大体営業社員が戻ってくる二十二時過ぎまで事務員である彩菜も残っていなければならなかった。営業社員が持ち帰ってくる発注データをその日のうちに倉庫や仕入先に流しておく必要があるからだ。
 その上、一緒に事務をしている五つ年上の女性社員、村井恵美子は自分勝手な人だった。何故か彩菜一人を残して毎日定時の十七時に帰っていく。
 最初のうちはその身勝手さに気付かなかった。二人とも残っている必要はないわけだから、交代で残業をするようになっているのかと思っていた。
 ところが何日経っても恵美子は先に帰っていく。残業はいつも彩菜の役目だった。
 さり気なく恵美子に不公平さを訴えてみたが、恵美子は自分が既婚者であることを理由にして、
「うちのこともやらなくちゃならないし。残業、できないんだよね」
 という一言で簡単に片付けられてしまった。
 文句を言いたくても、誰に言ったらいいのかわからなかった。社長に言って、社長から恵美子に注意してもらったとしたら、自分自身が恵美子から睨まれてしまいそうな、自ら自分の社内での居心地を悪くしてしまいそうな気がした。やっと見つけた職場をそんなことで失うのは嫌だった。履歴書をまた書くのも、えらそうな面接官に嫌味を言われるのも、もううんざりだった。
 残業をそれだけ多くしていたらさぞかし残業分で基本給に上乗せされるだろうと思いきや、それらのほとんどはサービス残業だった。全社員がそれを暗黙の了解としていたのだ。
 他の営業社員は自分たちの仕事で目一杯で、彩菜たち事務員の状況には気づいてくれなかった。忙しい他の社員たちにわざわざ恵美子の悪口を言いつけるようなことをするのもためらわれた。営業社員たちも残業はあるものの、休みはきちんととっていた。つまり社員の中で、会社に一番多く出勤しているのは彩菜だった。
 まあ、仕方ないか、この会社では新人なんだし……、と思って毎日一人で残業を続けていたが、先日大ショックなことがあった。
 昼休みを終え、事務所に入っていこうとした時、中から私用電話をしている恵美子の声が聞こえてきた。相手は親しい友人か誰かだったのだろう。
「新しくきた事務のコがさ、覚えが悪くて困っちゃう。同じこと、何度も何度も聞くんだもん。それはこの前言っただろ!って怒鳴りたくなるよ。つかえなーい!って感じ!」
 間違いなく彩菜の悪口だった。
 彩菜は愕然とした。
 恵美子にこんなふうに思われていたなんて。陰でこんなことを言われているなんて。
 わたしはそんなに何度も同じことを聞いただろうか。こんなことを言われるほど、覚えが悪かっただろうか。
 確かに営業社員一人一人に合わせた事務処理をしなくてはならないので、間違えてはいけないと、恵美子に確認をとることはある。
 でもうるさがられるほど、何度も聞いたりはしていない。それに恵美子は、
「わからないことがあったら、とりあえずわたしに聞いてね。間違えちゃってから訂正するのは大変だから」
 と、笑顔で彩菜に言ったではないか。
 彩菜は下唇を噛み、悔しさに動悸が早くなるのを感じながら、ユーターンして、とりあえずトイレに入った。
 鏡の前で呼吸を整え、そして悔しさを内に隠して、何事もなかったかのように事務所に戻った。
「お帰り」
 と言った恵美子の笑顔が、とてもわざとらしく感じられた。

 それからの彩菜は職場では、特に恵美子の前では、平静の仮面をかぶった。仕事なのだからと、自分の感情は表に出さないようにした。
 学生時代の友達から遊びに誘われても、休みがとれないので行けなかった。観たいと思っていた映画にも、好きなアーティストのライブにも、お気に入りブランドのセールにも行けなかった。会社にいる時間が生活の大部分だった。残りの時間は通勤か睡眠に使っているような状態だった。
 慣れない職場で、ストレスを発散させる場も持てず、誰にも愚痴をこぼせず、それでもどうにかやってきた。爆発しそうな気持ちを押さえつけて押さえつけて押さえつけて。


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