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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「blue season ~夏~」(5)

 
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 また眠ってしまったようだった。
 外から聞こえるドーンドーンという音で目が覚めた。何の音だろう。しばらくその音に耳をすましていた。
 そうか、花火の音だ。近所で花火大会が開催されているのだろう。
 窓を開けてみたが、音だけで花火は見えなかった。建物に遮られて見えないのだ。音は近いから、外に出れば見えるかもしれない。
 江奈は花火に誘われるようにして、外に出ることにした。
 音のする方へと歩いていった。少しずつ近付いている気がする。
 いくつめかの角を曲がった時、道端に立ち止まって空を見上げている人たちが何組かいた。江奈もその人たちが見上げている方向の空を見上げてみる。
 夜空に花火が咲いた。キラキラと散って落ちてゆく。ドーンという花火の音。
 きれい……。
 ドーン、……ドーン。
 不規則な花火のリズムが心地いい。
 江奈はもっと近くで見ようと、花火が見える方へ歩いていく。次第に人が多くなっていき、屋台なども見えてきた。
 人、人、人……。子供も大人もいる。みんな楽しそうな様子だ。屋台からは、焼きそばや焼きとうもろこしやお好み焼きやたこ焼きなどの食べ物のにおいがしてきた。
 江奈はふと、空腹を感じた。それもそのはずだ。この数日間、まともな食事をしていないのだから。江奈はこの賑やかな雰囲気に童心にかえっていた。幼い頃にお姉さん気取りで妹と連れ立って行ったお祭りのことが思い出された。子供だけでお祭りに行くなんて危ないと後から親に叱られたが、姉妹で行ったお祭りはとても楽しかった。江奈は持っていったお小遣いで焼きそばを買って、姉妹で食べた。ごく普通の焼きそばだったのだろうが、江奈の中であの時の焼きそばは今まで食べた中で一番おいしい焼きそばだった。
 横を見ると、ちょうど焼きそばの屋台だった。
 江奈は買おうとして、ポケットに手を入れ、ハッとした。お財布が、ない。持って出てこなかったのだ。
 戻って取ってこようかとも思ったが、花火が盛り上がっていて、もしかしてもう少しで終わりそうな予感がして、江奈は花火を最後まで楽しむことにした。花火はラストに派手なのがくるのだ。
 思った通り、派手な花火が続けて打ち上げられ、あちこちから歓声が上がった。そして、静かな夜空になった。
 花火を見終えて、ゾロゾロと人々が帰り始めた。江奈は道の端に寄って、楽しそうな様子の通行人を見ていた。不思議なことに孤独感はなかった。お祭り気分の高揚した気持ちが、さびしさを打ち消していた。
 人の流れをずっとぼおっと眺めていた。だんだんと通る人も少なくなってきた。
 そろそろわたしも帰ろうか、と思ったら、そこで再び孤独感がこみ上げてきた。
「ねえちゃん」
 不意に声をかけられた。
 声がした方を見ると屋台で焼きそばを売っていたパンチパーマのお兄さんが江奈を見ていた。二十歳前後に見えた。
 江奈が「わたし?」というふうに自分を指さすと、お兄さんは手元で何かをまとめて江奈に差し出した。焼きそばのパックだった。
「これ、やるから食いな」
 江奈が当惑していると、
「いーんだって。あまりだから」
 江奈は恐る恐る手を差し出して、その焼きそばのパックを受け取った。あたたかかった。頭の中では「何故、このお兄さんはわたしが焼きそばを食べたいことに気づいたのだろう」と思っていた。
「それと……」
 お兄さんは言葉を続けた。
「金、ないのか? 風呂代くらいならやるけど」
 ポケットに手を入れる。
「別に返してくれなくてもいーから」
 そこまで言われて初めて江奈は気づいた。
 自分の姿が他人にどう映っているか。
 着ている服はシワクチャのTシャツと七分丈のパンツ。真夏なのにお風呂にも何日も入っていない。髪の毛は梳かしてもいなくてグチャグチャ。汗ばんだすっぴんの顔。
「遠慮しなくていーよ」
 お風呂代も出してくれそうなお兄さんの手を止めて、
「あの、わたし、汚い……、ですよね?」
 と江奈は聞いた。
 お兄さんは少し戸惑ったような様子を見せながら、
「まあ、ちょっとな」
 とこたえた。
 江奈は耳まで真っ赤になる気持ちだった。
 そしてぺこぺこと頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。わたし、食べ物売ってる横でこんなカッコしてて……。あの自分がこんなひどい状態とは気づいてなくて……」
「ま、別にいいよ」
 江奈は顔を上げて、お兄さんを見た。
「今日はあんたが来るまでに結構売ったから。ま、何があったのか知らないけど、頑張りな」
 お兄さんはそう言ってニカッと笑った。前歯が一本抜けていた。その笑顔にやさしさを感じながら、江奈はもう一度頭をぺこっと下げて、
「これ、ありがとうございます。食べたかったんです。いただきます」
 とお礼を言った。自分のひどい状態には顔から火が出るほどの恥ずかしさを覚えたが、今会ったばかりの屋台のお兄さんの思いやりに冷え切っていた心がほんわりとあたためられた。


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