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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「blue season ~夏~」(6)

 
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 江奈は焼きそばを手に、はずむ心を抱きしめて部屋に戻った。
 食べる前にシャワーを浴びた。体力が落ちていたのか、ちょっとクラクラした。
 すっきりしたところで、まだあたたかい焼きそばを食べた。おいしかった。幼い頃のお祭りの時の焼きそばと同じくらいおいしかった。
 久しぶりにモノを食べたので、焼きそば一人前でおなかがいっぱいになってしまった。食べ終えてから江奈はドライヤーで濡れた髪を乾かした。途中で思いついて、パソコンの電源を入れた。
 ドライヤーをかけ終わると、パソコンがたちあがっていたので、書き込みをしたサイトにアクセスしてみた。青いTOPページが現れる。
 わたしの書き込み、まだ残ってるかな……。
 と思いながら、カーソルを動かす。
 あった。まだ残っていた。
 そしてそのスレッドに目を通して、驚いた。
 江奈が見なかった数日間の間にそれは巨大スレッドになっていたのだ。レスの数……、おそらく50を超えている。このサイトでこれだけの数のレスがついたスレッドを今まで見たことがない。
 江奈は心臓がバクバクするのを感じながら自分の書き込みにつけられたレスに目を通していった。
「こんにちは。長い書き込みだったので、読むのに時間がかかってしまいました。ブルーさんのツライお気持ちが自分のことのように感じられています。なんて言葉をかけていいのかわかりませんが、どうか気を落とさずに頑張ってください」
「その男はひどいですね! まだ4ヶ月で気づけて良かったと思いますよ。前向きにいきましょうよ」
「他にいい出会いはきっとあるはず」
「ブルーさんが優等生だとおっしゃるのがわかるように思いました。とても文章が上手ですね。ブルーさんは賢い女性だと思うので、客観的にご自分を見れば、立ち直れますよ」
「ブルーさんは責任のあるお仕事をしていて、立派な女性だと思います」
「失恋の翌日でもちゃんと出勤して、そして職場に行くと仕事の顔になれるなんてすごい。わたしが失恋した時は半年くらい何も手につかなかったよ。ブルーさんは強くて魅力的な人だと思う」

 延々と続く江奈を元気付けようとしてくれているレス。そして途中から、レスの流れが変わっていく。
「ところで、こんなにレスがついてるのに、ブルーさんはなんで出てこないんだろ?」
「ほんと。どうしたの? ブルーさん、大丈夫ですか?」
「ブルーさーん! 見てたらなにか書き込んで」
「落ち込んでるのかな? 味方はたくさんいるよ!」
「おいおい、シャレじゃなくなってきたよ。どうしたスレ主」
「まさか……失恋を苦に……」
「縁起でもないこと言うなっ」
「この書き込みから、ある程度ブルーさんの居所わかるんじゃない? 誰かブルーさんを助けて」
「誰かって人に頼むんじゃなくて、自分でもどーにかしよう」
「どうにかって、わたしはパソコンのこと、よくわからないし、IPとか調べ方もわからないし」
「本題からそれますけど、IPってなんですか?」
「とにかく見てたら一言! ブルーさん!」

 以下、江奈に呼びかけるレスが続く。
 江奈は読みながら、笑いがこみあげてきて吹き出してしまった。ひとしきりゲラゲラ笑う。笑いながら涙も出てきた。
 だって、だってだって、顔も見たこともないのに、みんななんでこんなに一生懸命なの。そんなみんなの気持ちがあたたかくって、嬉しくて……。
 パソコンという心を持たない機械を通じて多くの人の心が伝わってくる。あたたかい、やさしい心が。わたしのことを心配して、思ってくれる人がいる。同じ空の下に、いる。
 泣き笑いは、いつしか号泣に変わった。
 ひーひーいいながら、江奈は涙を拭いながらパソコン画面を見つめていた。
 少し落ち着いてからキーボードの上に手をおき、そしてキーをたたく。
「スレ主のブルーです。心配おかけしました。わたしは大丈夫です」
 それだけ打って、送信した。
 そして続けてキーをたたく。
「長い文章を読んでくださり、たくさんのレスをありがとうございます。実はここ数日パソコンをひらいていませんでした。人間を捨てたような、わたしがわたしじゃないようなすさんだ生活を送っていました。でも今日、花火を見てそして焼きそばを食べて、少し元気になりました。更にここのみなさんの言葉を読んで、嬉しくて嬉しくて涙が出てきました。見ず知らずのわたしに、本当にありがとうございます。きっとこの気持ちは一生忘れません。
 お蔭様で、わたしはどうにか立ち直れるかもしれません」

 送信する。
 ずっと切っていた携帯電話の電源を入れた。日付を確認する。夏期休暇は明日までだった。続いてメールチェックと留守電チェック。何も入っていなかった。江奈はまた少し気分が沈んだ。孤独だ……。
 江奈には親しい友人がほとんどいなかった。江奈は女同士のべたべたした付き合いが苦手だった。そんなことに気を遣うのなら一人で好きなことに時間を費やした方がずっとラクだと思っていた。でもこういう人恋しい時は自分のそういう性格を恨んでしまう。
 しばしボーッとした後、パソコンの方に振り向き、自分のスレッドを再表示してみた。
 江奈がお礼のレスをつけてからまだ数分しかたっていないのに、もうそれに対するレスがついていた。
「あー、よかった! 無事だったんですね!」
「立ち直れそうですか? よかったです。わたしも焼きそばが食べたくなりました」

 江奈はにんまりしてしまう。数分してから再表示、を繰り返すたびに新しいレスがついていた。そして何度かそれを繰り返した後、書き込まれていた長いレスに心をひかれた。
「お帰りなさい。きっと強い人だろうなと思っていたので、立ち直れるだろうと思っていました。ここ数日、一番底まで落ち込んでいたということでしょうか。底まで落ち込んだら後は浮き上がるだけです。えいっと底を蹴って、浮き上がってください。
 それと、ちょっと気になったことがあります。あなたは本当に彼と別れて落ち込んでいるのですか? というか、この先も彼と一緒にいたかったのですか? わたしには、この先この人と一緒にいても明るい未来はない、とあなたはどこかで気づいていたのだと思えます。でもあなたが彼のことを好きだったのは真実だと思います。それが同情、あるいは母性本能からきた感情だったとしても愛情は愛情だったと思います。もう一度聞きます。あなたは本当に彼との未来を信じていましたか? あなたが落ち込んでいるのは、あると思っていた未来が消えてしまったことに対する哀しみなのでしょうか。彼との未来を信じていなかったのなら、何故こんなに落ち込んでしまっているのか、理解できないかもしれません。
 わたしはこう思うのです。あなたが落ち込んでいるのは、彼との未来を失ったからではなく、あなた自身が彼を思っていたご自分の気持ちに執着しているからではないか、と。“彼に”じゃないですよ。“彼を思っていた自分の気持ち“にです。あなたがずっと優等生だったというので、尚更そのように思います。あなたは彼を信じていたのに、彼はあなたを裏切った。あなたが信じていたものは、意味のないものだった。でもあなたは自分が信じていたものが意味のないものだったとは思いたくない。だからそう思っていた自分の気持ちを簡単に間違いでしたと認めることができない。間違いなんかじゃなかったと思いたい。違いますか。
 わたしは決してあなたを非難しているわけではありません。わたし自身がそういう経験があるので、思ったままに発言しているだけです。あなたは知的な方だという印象を受けたので、こんなことに縛られて、いつまでも落ち込んでいてほしくはないのです。執着を捨てましょう。そして底から浮き上がってきてください」

 江奈はそのレスの意味を、何度も考えてみた。頭が混乱する。執着? わたしは自分の気持ちに執着しているだけなのだろうか。
 とりあえずパソコンの電源を切った。あと一日で休みも終わる。明日は美容院に行って少し気分転換をしよう。
 無力感に包まれていた江奈に少しだけ行動する力が出てきたようだ。

 翌日は美容院に行った。美容師にすすめられるままに、雑誌に載っていたタレントのヘアスタイルと同じになるようにしてもらった。中々いい感じに仕上がったけれど、「失恋して髪型変えるなんて、いかにもって感じ」と思った。でも気に入ったからまあいいか。
 その後雑用をしていたら、あっという間に夏期休暇の最後の一日が終わってしまった。

 翌日からは仕事だった。休み明けの仕事は忙しかった。「忙しい」という字は「心をなくす」と書くというけれど、江奈には心をなくすくらいの忙しさがありがたかった。心をなくさなければ、やっていられない時だってあるのだ。
 二時間ほど残業をして会社を出た。
 自分の部屋に近づいていくにつれ、気持ちが重くなってきた。思い出が残るあの部屋は、まだ江奈には辛かった。
 執着を捨てる……、か。
 江奈はネットの言葉を思い出していた。
 空を見上げる。細い月が見えた。やはり数日前は新月だったのか。
 江奈はゆっくり歩いていた足を止めた。見上げていた空から目をそらし、前方を向く。
 引っ越し、しようかな……。
 江奈はまたゆっくりと歩き出した。ひとつ決心をしたら、心が少し軽くなった。
 この喪失感と思える落ち込みの原因が、実は執着なのかどうかは、今の江奈にはまだわからなかった。わかるのには、もう少し時間が必要だという気がしていた。


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