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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「red season ~秋~」(1)

 
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 初めてのデートはうどん屋だったよね、と言うと彩菜は、
「あれはデートじゃない。食事に行っただけ」
 と口をとがらせる。
 でもあの数日後にまた帰りに落ち合って食事に行き(確かこのときはカレー屋さんだった)、帰りに並んで歩きながら、どちらからともなく手をつないで、それがきっかけのような感じで二人は付き合うようになったんじゃなかったっけ。
 彩菜はあの時、
「先に手をつないできたのは裕弥のほうだった」
 と言うが、そうだっただろうか。
 そもそも先にメールをくれたのは彩菜のほうだ、と言ったら、きっと彩菜はその前にメールアドレスが入った名刺をくれたのはあなたじゃない、と言うかもしれないな。
 まあ、そんなことはどうでもいい。今、こうして彩菜と俺は一緒の時間を過ごしている。それだけは偽りのない事実だ。

 不規則ながら週イチくらいは休みがとれる俺とは違い、彩菜の仕事は休みが中々とれないようだった。
 運がよく(?)俺が住んでいるアパートが彩菜の会社と自宅の間の駅で降りたところにあるので、俺が休みの日には彩菜は俺のアパートに寄っていく。といっても翌日の仕事のことを考えるとあまり遅くはなれないから、小一時間ほどしか一緒にはいられない。

 今日、俺は休みだったが、「もう今日は来ないな」と思っていたら、夜の十時過ぎに彩菜は来た。
 疲れた顔で部屋に入ってきて、
「おなかがすいた」
 と言うので、作ってあったシチューをあたためてあげた。作ったものの一人では食べきれなくて、冷凍保存でもしようと思っていたところだった。もしかして彩菜が来るかもしれないと思ってたんだけど。
 シチューと一緒にロールパンを出して、彩菜が食べている間、俺はパソコンに向かって調べものをしていた。
 俺が夢中になっている間に、どうやら彩菜は食べ終えて、食器を洗い片付けたようだ。
「ねえ、裕弥」
「ん?」
 振り向くと、彩菜はベッドに深く腰掛けて壁に寄りかかって俺に横顔を見せていた。
「わたしって冷たいかな」
「……なんで?」
「裕弥はわたしと付き合う前に、他の人と付き合ったこと、ある?」
「それは……、あるけど」
「ふうん」
 言いながら、彩菜は口をとがらせた。
 こういうことは正直に言わない方がよかったのかな、なんて俺が考えていると、彩菜は言葉を続けた。
「あのね、わたし前に付き合ってた人がいたんだけど」
 両手を天井に向けて伸ばす。その伸ばした手の先の指で、三角形を作っている。
「学生の時から付き合っていた人がいたんだけど、別れたの。相手に好きな人が出来て。つまりフラレたんだよね。でもね、わたし全然悲しくなかったの。たぶんわたしはそれほど相手のことが好きじゃなかったんだと思う。だけど付き合ってたら、やっぱり別れた時には悲しいものだよね。それほど好きじゃないとしても情とか、わいているはずだし」
 彩菜は指で作った三角形の中から天井を見つめていた。横顔のまつ毛がぴんと反り返っていた。
「悲しいどころかなにも感じないなんて。それどころか、別れてちょっとホッとしたんだよ、わたし」
 彩菜は少し間をあけて、続けた。
「ねえ、裕弥」
「ん?」
「わたしって、冷たいのかな」
 前に付き合っていた人の話なんて聞きたくないと思ったけど、彩菜の切羽詰ったような様子が俺にそれを言わせなかった。そして彩菜がどんな返事を期待しているのかわからなかったけれど、俺は思ったことを言ってみた。
「少なくとも、俺の知っている彩菜は冷たくなんてないよ」
 彩菜は伸ばしていた手をだらんと下ろし、俺のほうを見た。笑おうとしたようだったが、その瞳にはみるみるうちに涙があふれてきた。彩菜は俺から目をそらし、両手で顔を覆って声を出さずに泣いた。
 ゆとりのない生活の中で、こんなに情緒不安定になってしまっている彼女に、俺は何をしてあげたらいいのだろう。

「岸本くん、ご指名よ」
 と事務所の先輩に呼ばれた。
「イラストレーターの橘(たちばな)先生。岸本くんに原稿取りにきて欲しいって。もう出来てるって」
「わかりました」
 先輩は俺を見ながら腕組みをした。彼女は数ヵ月後に結婚を控えている。結婚しても仕事は続けるそうだ。
「なんで岸本くん、気に入られてるんだろうね。あの先生、気難しいのに。なにか気に入られるコツがあるの?」
 俺は笑ってそれにはこたえず、
「じゃ、早速いってきます」
 と言って、事務所を出た。

 コツなんて特にない。たまたま橘先生と俺が応援しているサッカーのチームが同じだったということだ。
 橘あおい先生(ちなみに男性)の描くイラストはほのぼのとしていて、密かな人気がある。以前うちの事務所に勤めていた人の友達ということで、仕事を引き受けてくれているそうだ。
 年齢は三十歳をちょっと過ぎたくらいだろうか。金髪に近いような茶髪で、チャラチャラしている人なのかと思ったら、口数も少なくてすごく真面目な人なのだ。一見気難しそうだが、サッカーの話、特に好きなチームの話になると、突然穏やかな楽しそうな顔になる。
 橘先生はこのことは、あまり他の人には言うなと俺に言った。あまりプライベートなことで人から干渉されたくないのだそうだ。だから俺はこのことは事務所の他の人にも言わなかった。そんなわけで事務所の人は、なんで気難しい橘先生に俺が気に入られているのかわからないのだ。気に入られているっていうか、同じサッカーチームを応援してるっていうだけなんだけど。


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