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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「white season ~冬~」(2)

 
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 両親が出かけてしまうと、また姉妹だけの家になった。すき焼き鍋を片付けた後のこたつの上にはカゴに入ったみかんが置かれた。テレビでは紅白歌合戦が放送されていた。
「いつまでも仲がいいわね、うちの両親は」
 江奈は自分が買ってきたお土産の「白い恋人」のチョコレートドリンクを2缶持ってきて1つを彩菜に渡した。栓を開けてから「かんぱーい」と2つの缶をコツンとぶつけあう。
「お姉ちゃん、きれいになったね」
 彩菜は一口飲んでからさっき言いかけた言葉の続きを言った。
「そう?」
「うん、なにかいいことあった?」
 江奈は持っていた缶をこたつのテーブルの上に置いた。
「あのね、失ったものばかり見てしまうのは、もうやめようと思って」
「え?」
「というか、実は失ったものなんてなにもなかったのかなとも思って」
「え……と」
「人はね、失ったりしないのよ、きっと。失ったと思ってしまったものを見つめ続けるより、得たもの……というか気付けたものね、それを大切にしていこうかなって」
 一瞬目を伏せた姉を、彩菜は美しいと思った。見とれていると、姉はすぐに目線を上げて彩菜を見た。
「あ、それとね、わたし引っ越したんだ。彩菜にはまだ住所教えてなかったよね。後で教えるね」
「う、うん……」
 彩菜が話を理解するより先に、江奈は話を締めくくってしまった。江奈の話は彩菜には抽象的過ぎた。一体何についての話だったのだろう。恋愛の話だったの? 失恋したっていうのは本当なの? だから髪型を変えたの? きれいになったのは、なにかを吹っ切ったから?
 彩菜が考え込んでいると、
「彩菜は最近どうなの? つきあってる人、いるの?」
 江奈が訊いてきた。
 やっぱり今のは恋愛の話だったのかなと彩菜はまだ頭を混乱させたまま、
「うん、いるよ」
 もったいぶる余裕もなく、素直にこたえてしまった。
「へー、どんな人?」
 江奈は興味を持って身を乗り出してコタツテーブルの上で頬杖をついた。
 彩菜はいつの間にか自分の話題になってしまっていることに戸惑って瞳を泳がせながら、でも姉を相手に話をはぐらかすのも不自然だったので、
「あの、年齢は同じで、デザイン事務所に勤めてる」
 とこたえた。
「デザイナーなの?」
「ううん、営業。学生時代からバイトしていた会社なんだって。大学卒業して就職先が決まらなくって、そのままバイトを続けることにしたんだって」
「え、フリーターなの?」
「それがね、来年から正社員になれるんだって。結婚した女性社員の先輩がいて、結婚後も仕事を続けるはずだったのに子供ができて辞めることになって、その後釜っていう感じで、社員になれることになったんだって」
「へー」
「今までもバイトだったっていっても、社員と同じくらい働いてたみたいだけど」
「真面目なんだ」
「うん、真面目で純粋でやさしい人」
 江奈はキッパリと言う妹を見て目を細めて、うふふと笑った。
「いい人そうだねー」
「うん」
 彩菜は頷きながら頬を染めた。
「で、彼は今どうしてるの? 一人暮らし? 実家に帰ってるの?」
「それがね……」
 彩菜は、裕弥から聞いた裕弥の家庭の話をぽつりぽつりとした。他の誰にも話さなかったが、姉には話せるし聞いて欲しいと思った。母親は裕弥を産んだ後にすぐ出て行ってしまったこと。父親が再婚したこと。その家庭には裕弥が入り込む場所がないということ。だから実家には何年もずっと帰っていないということ。
 江奈は彩菜の話を神妙な面持ちで聞いていた。彩菜が話し終わると、
「母親はどこにいるの? 一度も会ったことないの?」
 と聞いた。
「うん。会ってないって。写真すら残ってなくてどこにいるのかも、生死さえもわからないけど、父親に聞けばわかるかもしれないって」
「母親に会いたくないのかな」
 彩菜は小さく息をついて眉根を寄せた。そして呟くように言った。
「……こわいって、言ってた」
「こわい?」
「うん。彼は父親にもあまり可愛がられてきてないし……。だから母親に会いたいっていう気持ちはもちろんあるんだろうけど、出て行ってから一度も会いに来てもくれなかったわけだし……、もし母親に会った時に迷惑そうな顔をされたりしたら……」
「ああ……」
 江奈は理解して頷いた。
「『母親にも認められなかったら、俺、やばいじゃん』って」
 彩菜はふうっと目を伏せた。
「でもそういうこと、彼は笑いながら言うの。そういう人なの」
「話を聞いて思ったのは……」
 江奈は自分が思ったことを口にした。
「彼は今まで自分が認められていない存在ってどこかで思っていたわけでしょ。認められて当たり前のはずの父親には愛情をそそいでもらえず、母親にはどう思われているのかわからなくて」
「……うん」
「でも、今は違うじゃない。彼には彩菜がいるでしょう。彩菜は彼を認めているし、裏切らないでしょう?」
「うん」
 頷いた彩菜の瞳には確固とした意思があった。決して揺るがない真っ直ぐな心だった。
「だったら彼は大丈夫だと思うよ。例え会った時、母親がどんな反応をしようとも」
「会うようにって勧めた方がいいと思う?」
「まず行方を調べてからね。相手の状況にもよるだろうし」
「だけど、わたしがそこまで踏み込んでいっていいのかな。だってこれは彼の中のとってもデリケートな問題でしょう?」
「母親の行方を知った上で、会うのか会わないのかは彼が自分で決めることで、押し付けることはできないと思う。デリケートな問題だけど、彼のエリアのそこまで踏み込んでいけるのは唯一、彩菜だけなんじゃないかな」
「迷惑だと思われない?」
「迷惑だと思われるところまで踏み込まなければいい」
「う、うーん、難しい……」
「難しいのよ、人との距離のとり方は。だけどそういうこと、ちゃんと頭と心をつかって考えないとダメ。彩菜は彼の心に近付いて、もし彼が“会いたいけどためらっている”のであれば、背中をそっと押してあげる。そして彼がもし傷ついたら受け止めてあげる。彼の帰る場所になる。それが彩菜の役目」
 彩菜は感心して江奈を見た。
「……お姉ちゃん、すごい」
「は?」
「お姉ちゃんの言うこと、すごい。なんだか力がわいてきた」
「そう?」
「お姉ちゃんはやっぱりすごいね。いろいろなこと、わかってるんだね」
「……人のことなら、よくわかる……ってか」
 江奈は彩菜にも聞こえないくらいの小声で言った。
「え?」
「なんでもない」
 江奈は言って、ふっと遠い目をした。彩菜は姉がどこを見ているのか、なにを思っているのかわからなかった。ただ姉はやはりすごいとひたすら思っていた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
 江奈は遠い視線から戻ってきて妹を見た。
「ありがとう」
 素直に頭をぺこりと下げている妹を見て、
「どういたしまして」
 江奈はほほえましい気持ちになった。


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