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「Four Seasons ~月の響きをききながら~」

「white season ~冬~」(4)

 
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 翌日、大晦日の義母に指定された昼頃、裕弥は実家を訪ねていた。
 約十年ぶりに見る実家は裕弥の記憶とほとんど変わっていないように感じた。本当に十年もの年月が流れたとは、信じられない気がした。まるで昨日までこの家に住んでいたような気すらする。でもよく見ると、門も壁も裕弥が知っているものより古くなっていた。門柱に門松が飾られていた。チャイムを押すとインターフォン越しに義母の声が聞こえ、義母によって玄関のドアが開けられた。
 義母はショートカットを栗色に染めていた。父親のパートナーとしては若く見えた。確か父親と同年代だと思ったが。
「まあ、裕弥さん、すっかり大人になって」
 義母は家の中に裕弥を招じ入れながら、裕弥を珍しいものでも見るように上から下まで見ていた。最後に会った時の印象がほとんどないので、義母が変わったのかどうか裕弥にはわからなかったが、義母がつけている香水の匂いがした時、時間がさかのぼったような気持ちになった。懐かしさは息苦しさと共によみがえった。
「香水つけてます?」
 義母の視線に居心地が悪くなり、裕弥は視線から逃れようと関心をそらすような質問をした。
「あら」
 義母は頬を染めた。
「よくわかったわね。この香水はね、あの人が好きな香りなの」
「そうですか……」
「裕弥さんもこの香り好き?」
 何もこたえない裕弥の顔を見て義母は微笑んだ。女を感じさせるような媚びた笑顔だった。
 この人、なにか勘違いしてるんじゃ……。
 と裕弥は思いながら、義母が勧めるままに食卓がある部屋に入っていった。

 テーブルの上には、ちらし寿司を盛ったお皿が3つ置かれていた。
「ごめんなさい、大晦日で慌しくてたいしたもの作れなくて」
 義母はテーブルの席のひとつを裕弥に座るように勧めた。
「あの人、呼んでくるわね」
 裕弥は着ていたコートを椅子の背にかけ、奇妙な緊張を感じながら、席に座って父親を待っていた。
 部屋の装飾は裕弥の記憶とは変わっていて、まるで見知らぬ家にいるようで落ち着かなかった。裕弥は実家に帰ってきたのではなく、自分はこの家にとって“お客さん”なのだと思った。

 義母に呼ばれ、現れた父親は不機嫌そうな様子だった。なんて声をかけていいのかわからず目が合ったら頭でも下げようかと思っていたが、父親は裕弥を見なかった。
 義母と並んで裕弥と向かい合う席に座った父親を見て、白髪が増えたな、と思った。あまりじろじろ見るのも悪いような気がして、裕弥は父親から目をそらした。でもどうしても気になってしまう。
「さ、いただきましょうか」
 義母が言って、三人は食事を始めた。
 父親は一切、裕弥を見ようとしなかった。気詰まりな雰囲気の中で、浮かれた様子なのは義母だけだった。まあ、それが救いといえば救いだった。
 義母の作ったちらし寿司はおいしかった。裕弥は義母の料理で育ってきたといっても過言ではなかったので、ちらし寿司を食べながらちょっとしんみりとした。それにしても裕弥は、父親と再会してこんな気詰まりな状態になるとは予想していなかったので、来たのは失敗だったかなとも思っていた。裕弥はどこかで期待していた。再会した父親とよい親子関係が築きなおせることを。
「裕弥さんは、お仕事、なにをやってるの?」
 義母が訊いた。仕事の話になったので、父親が条件反射的に更に不機嫌そうな顔をしたのが視界に入った。
「デザイン事務所で働いてます」
「へえ、意外。裕弥さんって、そういう方向の勉強してたっけ?」
「デザイン事務所といっても、営業の仕事をしてますから」
「あー、そうなの」
 会話が途切れた。父親は黙々と食事を続けていた。裕弥は、父親なのに息子の仕事に全く興味がないのかと思って失望した。父親に少しも関心をもたれない自分がとてもちっぽけな存在に思えた。
 ふと目線を上げると、義母が裕弥に目で何かを訴えていた。なんだろう?、と思って首を傾げると、義母は父親の方に視線をチラリと向けて、その表情に「言ってよ」という意味をこめた。
 ああ、そうか。親父が仕事をする気があるのかないのか、義母はそれを俺に聞いて欲しいんだ。そのために俺はここに呼ばれたわけだし。
 と気付いた裕弥はためらいがちに、
「あの、ちょっと聞いたんだけど」
 と父親に向かって言った。父親はちらりと裕弥を見たがすぐに目をそらした。裕弥はくじけそうになったが、言いかけたことは最後まで言おうと思って続けた。
「会社辞めたんだって?」
 父親は何も反応せず、ちらし寿司を食べ終え、お茶を一口飲んだ。裕弥はまたくじけそうになったが、気持ちを奮い立たせた。
「それで、あの、別にこれで引退しようとか思ってるわけじゃないんだよね。また働こうとは思ってるんだよね」
 義母は横でハラハラしたような様子だった。
「しばらくはゆっくりしたいって気持ちもわかるけど」
 裕弥が言いかけた時、
「関係ない」
 父親が初めて口を開いた。裕弥も義母もハッとして父親を見た。父親は顔を上げて、真正面から裕弥を見た。それは息子に向ける視線とは思えない、あまりにも冷たいものだった。
「おまえには、関係ない。これは夫婦の問題だ。大体、なんでおまえがここにいて、そんなえらそうな口をたたいてるんだ。おまえはもうこのうちから出て行った人間だろう」
「あなた!」
 義母が慌てて父親を制した。父親は言い終えると、さっと裕弥から目をそらした。
 裕弥は目の前が真っ白になって息が止まりそうになった。身体中から冷や汗が噴き出した。
 幼い頃、夜一人で父親を待っていた時の気持ち、不安で淋しくて、泣きたいけど泣けないような、自分の存在が今にも消えてなくなりそうなギリギリの状態、自分を自分自身で抱きしめるしかなくって膝を抱えて小さくなっていた時の気持ち、父親に期待して裏切られた、あの切り裂かれたような衝撃……、
 全てが一気によみがえってきて、裕弥をぎゅうぎゅうと締め付けた。
 意識がふっと遠のいて、自分がどんな行動をしたのかわからなかった。気付いたら玄関にいた。「裕弥さん!」義母の声が背後から聞こえた。どうやら裕弥は無言で席を立ち、椅子の背にかけておいたコートをつかんで玄関に走ってきたようだった。
「裕弥さん!」
 無意識に裕弥は義母につかまれた腕を思いきり振り払っていた。乱暴に振り払われて戸惑う表情の義母と目が合った。義母はおびえたような瞳をしていた。頭がくらくらした。義母の姿もかすんで見えた。俺、なにやってるんだ。やばい。苦しい。
 急いで靴を履いてドアを開けて外に出た裕弥を義母は追ってきた。
「裕弥さん!」
 門に手をかけて、裕弥は一瞬止まった。チラッと振り向くと、すぐ近くまで義母が追ってきていた。裕弥は義母から目をそらした。門にかけた手がぶるぶる震えていた。裕弥は俯きながら義母と目を合わせないように少し振り向いて、
「良いお年を」
 小さな早口でそれだけ言って、義母の反応も確認せず、一目散に門から出て走り、実家から離れた。一秒でも早く遠くに行きたかった。


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