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短編

「あした吹く風」

 
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 びゅうっと風が吹いたから、いつものごとくクセッ毛の私の髪はぐちゃぐちゃになった。むわっとした湿った生ぬるい風は、容赦なく私の髪を踊らせる。私はいつものショッピングモールの、おもちゃ箱のようなドラッグストアに入って、ぐるりと店内の商品をチェックしてからヘアブラシをひとつだけ買った。いつもの女子トイレの鏡でヘアスタイルを整えていたら、
「台風が近付いてるらしいよ。花火大会、延期だって」
「楽しみにしてたのに~、残念~」
 居合わせた女子高生たちの会話が耳に入ってきた。
 雨が降り出す前に帰ろうと思いつつ、いつものように近くのフラワーショップで季節の花をひと通り眺めた。何度見ても、向日葵は切り花に似合わない。今日はなにも買わずに、いつもの通り、隣のコーヒーショップで一休みする。香ばしいコーヒーを飲んでいたら、前の席の人がカレーを食べていた。ここはコーヒーと同じように、カレーがおいしいと評判なのだ。そのにおいに鼻腔をくすぐられて、今夜はカレーを作ろうと私は思った。

「風が強かったから、今夜はカレーだと思ったよ」
 キッチンで料理をしていると、自称芸術家の相棒が話しかけてきた。彼は今、粘土を使った作品に取り組んでいる。入道雲をモチーフにした大作だそうだ。テーブルに置いたブラシを見て、
「また増えた。ブラシ屋さんが開けるね」
 と笑った。風が吹くたびブラシの数は増えてきた。

 私たちは向かい合ってカレーを食べた。ジャガ芋はゴロゴロしているのに人参はすりおろしてある独特の、ジャガ芋好きな私と人参嫌いの相棒の二人のためのカレー。
「おいしいね」
 と私たちは顔を見合わせて微笑んだ。外では雨と風が音をたてている。
 今夜は私と相棒の最後の晩餐だ。夢見がちな二人は気が合ってつきあい始めたけれど、夢を追い続ける相棒と、そろそろ堅実な現実を生きたいと思い始めた私は、見つめている方向が違うと気付いてしまった。だから明日の朝、雨と風がやむ頃、私は風が吹いた日の数だけのたくさんのブラシを鞄に詰めて、ここを出ていく。
 笑顔の二人を忘れたくなかったから、泣きながら笑って、私たちはいつものカレーを食べた。
 明日になれば、台風は去るだろうか。去っていればいい。もう少し去らないでいてくれてもいい。
 いつかなんて信じてない。いつかなんて日はこない。でも、いつか、たぶん。いつか、きっと。
 私は、今日の日の風景を思い出すだろう。びゅうっと風が吹いたなら。





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