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短編

「顔」

 
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「ふざけるんじゃない!」
 ふざけているわけではないのに、また言われた。
「ニヤけるな!」
 全くニヤけているつもりはなかった。そもそも取引先への連絡ミスを謝りに出向いている時に、ふざけたりニヤけたりするはずがない。顔のせいだ。全て僕の緊張感ない顔が悪いのだ。
 細くて垂れた目元は真顔でも笑っているようで、分厚い唇の口元は締まりがない。ふっくらした頬は厳しさの欠片もなく、つまり真面目な顔をしているつもりでも、人から見るとニヤけているような顔つきなのだ。上司は鬼の形相で、
「おまえの顔はこの会社には向いていない」
 と言い放った。ひどい言い様だと思ったが、冷静に考えてみると、不景気な昨今、他の社員が目を血走らせて働いている中、ミスをしたのにニヤけているような顔の僕は、社内でも浮いていた。
 顔さえ変えれば解決する。僕は思い切って美容整形外科を訪ねた。

「まず目を二重にして切れ長にする、そして少しつり目気味にするとキリッとするね」
「頬をシャープにして、鼻筋を通す、男性にしては色白過ぎるから、ちょっと日に焼けた感じにしてみましょうか」
 カウンセリングを受けながらモニター上に作り出された僕の顔は、まるで別人だった。全財産をはたいてでも顔を変えようと意気込んでいたが、少し考えさせてくださいと言って診察室を出た。

 僕は行きつけのバーのカウンターの端っこでグラスを傾けていた。カウンター内には女性スタッフが一人。店が混んでくる夜9時過ぎにマスターが来るまで、毎日彼女のみで営業しているのだ。綺麗なのに無愛想で、客に話しかけもしない。いらっしゃいも言わず、考えてみたら彼女の声を聞いたことすらない。この時間帯はいつも空いていて、客が僕一人だけのことも多いが、居てもいいんだと思わせてくれるこの雰囲気が気に入っていた。今日も僕の他に客はいなかった。
 大きな溜息をつく。僕は僕ではない誰かにならなければ、世間から認められないのだろうか。思わず涙がにじんで、目頭をおさえた。
「ドゥシタ?」
 驚いて顔を上げた。いつも無口な女性スタッフが困惑したような表情をしながら、空になったグラスをとって、水割りを作ってくれた。
「ズット海外グラシだた。ヒアリングはダイジョブ、トークはダメ」
 片言で必死に言葉を紡いでいる。
「おキャクさんの顔ミルト、いつもホッとスルよ」
 目が合うと彼女は微笑んだ。初めて聞く声はあたたかく、笑顔は美しかった。厄介なだけのものが、見方を変えれば役にたっているなんてことがあるのだろうか。
 慰めてくれているだけかもしれない。そう思いながらも、別人になっていない僕は、涙ぐんだまま笑い返した。





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