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正解

正解・アオキ編

 
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 父親は町の権力者だった。自宅に訪ねてくるおじさんたちは、子供の僕にまでペコペコと頭を下げ、
「利発そうなお坊ちゃんですね!」
 作り笑顔で見え透いたお世辞を口にした。
 ある時、そのおじさんたちが帰った後の応接室に呼ばれた。父親は机の上の置かれた札束を僕に自慢気に見せた。
「すごいだろ。何も言わなくてもこんなに持ってくる。おまえも私みたいな大人になれ」
 そんな父親を“すごい”とは思えずに、複雑な気持ちになった。そのおじさんたちは札束と引き換えに、何か高い地位を手に入れていたようだ。それが正しいことだとは全く思えなかった。

 僕は上手に笑えない子供だった。小学校に行っても友達もできなくて、いつも一人だった。そんな僕に声をかけてくれたヤツがいた。おもしろいことばかり言ったりやったりしているクラスの人気者だった。みんなが怖がって手を出さなかった理科の実験をソツなく終えた僕を、他のクラスメイトたちは遠巻きに見ていたけれど、そいつは僕に近づいてきて言った。
「アオキ、おまえ、すごいじゃん!」
 それをきっかけにして、そいつはアオキ、アオキ、と何かの度に僕をみんなの輪に入れてくれようとした。どうしてもみんなに馴染めない僕の肩に手をかけて、
「俺にはわかる。おまえはいいヤツだ」
 なんて言ってくれた。そんなことを言ってくれる人はいなかったから、恥ずかしかったけれど嬉しかった。同時にそいつの無邪気さが羨ましかった。

 だからそいつが毎日忘れ物をして、また体操着を忘れて先生の堪忍袋の緒が切れるのを察して、僕は自分の体操着を貸してやった。僕は優等生だから、一回くらい忘れ物をしても授業をさぼってもどうってことなかった。
 放課後の校庭で呼び止められた。体操着のお礼として差し出されたお金を見て、ゾッとして顔をそむけた。そいつは戸惑ったように、でも思いついたように、得意の物まねをした。それを見ながら嬉しくなった。

 そいつが家の事情で転校することになった。教えてもらった住所に毎年年賀状を送ったけれど、返事はまるで来なかった。僕は子供らしい子供じゃないまま、中学生になって高校生になって大学に進学した。友達らしい友達はできなかった。両親は僕が優等生でいれば満足のようだった。
 大学生になってから、キャンパスでよく見かける笑顔が無邪気な女の子が気になるようになった。話しかけたかったけれど、きっかけがつかめなかった。そんな折、権力者だった父親が脱税をして、ちょっとしたニュースになってしまった。翌日、大学に行くと、憧れの女の子に軽蔑の眼差しで見られた。ニュースを知ったのかもしれない。何も始まってもいないうちに失恋か。胸がえぐられるようだった。

 まっすぐに帰る気もしなくて、帰り道にある公園のベンチにぼんやりと座っていた。ふと小学生の時に別れたきりのクラスメイトのことを思い出した。どうしているだろう。
 会いたいなと思った。ポケットから携帯電話を取り出したが、電話番号を知らないことに気づいた。孤独だな、底なし沼みたいな暗闇だ。
 ため息をついて、立ち上がった時、携帯が鳴った。知らない番号からだった。
『俺』
 と電話の向こうのヤツは言った。心臓がドキッと鳴った。
「ああ」
 短く答えると、
『死にてえ』
 電話の向こうのヤツは僕が思っていたのと同じことを言った。すすり泣く声が聞こえる。ベンチに腰を下ろし、じっとしていた。気づいたら、涙が頬を伝っていた。
 何か言いたいことがあるのに、言葉にならなかった。僕は何を言いたいんだろう?
 電話の向こうで鼻をすする音がして、僕が言いたかった提案が聞こえてきた。すごいな、さすがだな、こいつ、と思った。
 笑うのが苦手な僕はその「友達」の言葉に、頬が緩むのを感じた。





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